企業法務


取締役として名前を貸すのはOK?

 

 先日、友人から「株式会社を設立したいので、取締役として名前だけ貸して欲しい。一切迷惑はかけないからよろしく頼む。」と頼まれました。理由を聞くと、株式会社を設立するには取締役が3人必要なのに、1人足りないとのことでした。仲のいい友人からの頼みですし、別に友人の連帯保証人になるわけでもないので、名前くらい貸してあげてもいいかなと思っているのですが、念のため、取締役として名前を貸した場合、どうなるのかについて教えてください。

 

 確かに、平成17年改正前の会社法では、株式会社の取締役は最低3人必要とされていました(旧商法255条)。しかし、現在の会社法では、取締役会を設置する場合には取締役は最低3人必要なままですが、取締役会を設置しない場合には取締役は1人でもよいとされています(会社法331条4項、326条1項・348条2項)。したがいまして、もしご友人の設立する会社が取締役会設置会社ではない場合には、ご友人の発言には勘違いまたは嘘があるということになります。

 

 次に、取締役として名前を貸した場合についてご説明します。

 

 そもそも、取締役は、取引先などの第三者が会社との取引などによって損害を負った場合には、その第三者に対して任務懈怠にもとづく損害賠償責任を負うとされています(会社法429条)。この損害賠償責任は、会社が倒産した場合に会社債権者が被る損害の賠償などにも及ぶため、莫大な額となる可能性があります。

 

そして、実際には何らの職務行為も行わない名目的取締役についても、通常の取締役と同様の責任を負うとした最高裁判例があります(最判昭和48..22民集27巻5号655頁など)。下級審の裁判例では、報酬を一切受けない名目的取締役の責任を否定したものも少なくありませんが(東京高判昭和57.4.13下民32巻5~8号813頁、東京地判平成2.1.31金判85828頁等)、これらの裁判例は、常に3人の取締役が必要とされた旧法下のものであり、そうした旧法の制度が名目的取締役を生んでいるという認識をベースとしたものであると解されます。したがいまして、取締役は1人でもよいとされている現在の会社法制下においては、名目的取締役であってもその責任を問われる可能性がきわめて高いといえます。

 

 取締役になってしまった後に、以上の責任を回避するには、取締役を辞任する必要があります。辞任はいつでもできますが(民法651条1項)、会社から損害賠償を請求される可能性があります(同法同条2項)。また、辞任したとしても、取締役としての登記が残存している場合には、なお第三者に対して取締役としての責任を負いうるとした最高裁判例もあります(最判昭和62.4.16民集150685頁)。

 

以上は、名目的ではあれ、株主総会の選任決議を経て取締役となった場合についての話ですが、株主総会の選任決議を経ていない場合も、やはり同様の責任を負う可能性が高いといえます。すなわち、取締役の氏名は登記事項であるところ(会社法911条3項13号・915条1項、商業登記法46条2項・54条1項)、選任決議を経ていないにもかかわらず取締役として登記されることを承諾した者は、取締役でないことを善意・無重過失の第三者に対抗できず、したがって取締役としての第三者に対する責任を免れることができないとした最高裁判例があるのです(最判昭和47.6.15民集26巻5号984頁)。

 以上の諸事情に照らせば、たとえ仲のいいご友人からの頼みとはいえ、取締役として名前を貸すのは避けるのが賢明です。