法律相談例


借りたお金の時効について知りたい

 随分古い話なのですが、私は平成14年に、Aから100万円を借金しました。そのお金は、平成15年4月1日に返済するという約束だったのですが、Aから特に請求を受けることもなかったため、申し訳ないとは思いつつ、まったく返済をしていませんでした。

 ところが、平成27年10月1日のお昼頃、Aは、事前の連絡もなく突然私の自宅に来て、「いますぐ100万円を返せ」と、ものすごい剣幕で請求してきました。突然のことだったので、私はとても戸惑い、怖かったのですが、さすがにそんな大金はないと言って断ったところ、Aは「ではとりあえず1000円でもいいから今すぐ返せ」と怒鳴りました。そこで、私は1000円をAに手渡し、Aに帰ってもらいました。

 それから1か月後、今度は、残りの99万9000円を支払え、という内容の請求書がAから届きました。友人に相談したところ、時効だから払わなくてよい、というアドバイスをもらったのですが、本当に払わなくてもいいのでしょうか。

 

 

 

 

借りたお金の時効について知りたい

 あなたがAさんから借りたお金をAさんに返す義務(貸金返還債務)は、弁済期から10年間で消滅時効にかかるのが原則です(民法167条1項)。また、Aさんがサラ金業者などの金融業者だった場合は、期間が短縮されて、5年間で消滅時効にかかります(商法522条)。

 本件の貸金返還債務の弁済期は平成15年4月1日ですから、いずれにせよ、Aさんがあなたのご自宅に押し掛けてきた平成27年10月1日の時点では、消滅時効が完成していたことになります。この点に限れば、ご友人のアドバイスは正解です。

 しかし、債務者であるあなたは、平成27年10月1日、Aに対して1000円を支払ってしまいました。この支払行為は、法的には100万円の貸金返還債務の一部弁済にあたり、同債務が存在することを承認する行為にあたると評価するべきことになります。そして、このような債務の承認があった場合は、消滅時効にかかっていることを債務者が知っていた場合はもとより、知らなかった場合も、以後、債務者は消滅時効を主張することができなくなるというのが最高裁の判例です。

 したがって、原則として、あなたは消滅時効を主張することができず、残りの99万9000円を支払わなければなりません。

 ただし、まったく争う余地がないかというと、必ずしもないとは限りません。

 まず、Aさんはあなたに対して、ものすごい剣幕で請求したり、怒鳴ったりしたとのことですが、これらの事実を証明できれば、強迫による承認だったとして、承認の取消しを主張する余地があります。この主張が認められれば、あなたは消滅時効を主張することができます。

 また、近時の下級審判例に照らせば、Aが金融業者であるなど消滅時効についてよく知っている場合で、かつ、あなたが時効についての詳しい知識に欠けていたためAの都合のいいように利用されてしまった場合などのように、消滅時効の主張を認めても信義則に反するとはいえない特段の事情が認められる場合には、例外的に、なお消滅時効の主張が認められる可能性があります。

 いずれにせよ、難しい交渉が必要な事件ですから、今後は、弁護士を立てて交渉することをおすすめいたします。