家事事件


母の遺言書を作成したい

 

 母は、2年ほど前から軽い認知症と診断されています。父はすでに他界しており、母の面倒は私がみてきました。私には兄がいますが、数年前に母と大喧嘩をして以来、母の世話をするどころか電話の一本もかけてこない状態です。母は、これまでずっと身の回りの世話をしてきた私に、全ての財産を相続させたいと言っていますが、そのような遺言書を作成することは可能でしょうか。後で兄にクレームをつけられるのではないかと心配です。

遺言書作成についてのご相談ですね。まず、遺言を作成するにはどんな方式があるのか、簡単にご説明します。

 一 自筆証書遺言
   遺言をする人(遺言者)が、遺言の全文と日付及び氏名を書いて印を押せば作成できるもので、一番簡単な方法ともいえます。しかし、後になってトラブルが多いのもこの方法です。もっともよく目にするのは、パソコンで作成したために遺言が無効とされる場合ですが、これは「自筆」証書遺言である以上、遺言者が自分の手で書くことが必要だからです。また、遺言の内容が法律的に不明瞭などの理由で、相続人同士の紛争となることもあります。さらに、遺言者が亡くなって相続が開始してから、家庭裁判所での検認(相続人全員を呼び出して遺言書の状態を確認する)が必要であるなど面倒な手続もありますので、あまりお勧めしておりません。
 二 公正証書遺言
   公証役場の公証人が遺言者の遺言の意思を確認して作成する遺言書です。具体的には、証人二人以上が立ち会い、遺言者が公証人に遺言内容を説明し、公証人がこれを筆記して(実際は事前に文書を作成しておきます)遺言者と証人に読み聞かせ、内容が正確であることを確認して、遺言者と証人が署名押印します。さらに、公証人が方式に従って作成した旨を付記して署名押印して完成し、原本は公証役場で保管してもらえます。公証人の手数料も必要ですし、少し面倒に思われるかも知れませんが、法律の専門家である公証人が作成するので内容が明確で、紛失・偽造などの心配もないので、後の紛争を防止できるきわめて有効な方法です。通常は公証役場に出頭して作成しますが、身体が不自由なときなどは、病院や自宅まで公証人に出張してもらい作成することもできます。
 三 秘密証書遺言
   遺言者が、遺言内容を記載した文書を作成して署名押印し、封筒に入れ、遺言書に押印したものと同じ印鑑で封印します。そして、公証人及び証人の前に封書を差し出して遺言書を作成したことを申し述べ(申述)、公証人がその申述や日付を封紙に記載したあと、関係者全員が署名押印する手続が必要です。公正証書遺言と同じく遺言者が遺言を作ったことが公証人により明らかになり、しかも自筆証書遺言と同様に遺言内容の秘密が保たれますが、後の紛失の危険や遺言内容そのものが不明確になるおそれといった弱点も自筆証書遺言と同様です。こうした弱点を避けるには、弁護士やその事務員といった守秘義務がある者に証人を依頼して公正証書遺言を作成することで、公正証書遺言の確実性と自筆証書遺言の秘密性を同時に満たすことができます。
   
 さて、ご相談の内容についてですが、まず、お母様がどのような精神・身体状態なのか医師に確認することが大切です。遺言書を作成する人には意思能力(遺言内容の結果を自分で判断しそれを表明する能力)が必要ですが、認知症の場合、薬の服用により全く健常な判断能力を有している方も多く、一時的に意思能力が認められない状態がある方でも本心に服している時であれば作成は可能です。
 次に、遺言の方式については、お母様の状態や遺言内容からすると、後日にお兄様と遺言の効力などにつき争いになる可能性があると思われますので、公正証書遺言の方式が適切です。また、念のために遺言作成時のお母様の精神・身体状態について、遺言内容が理解できる程度であることを示す診断書を主治医に作成してもらうことも有益です。
 最後に、全ての財産を相談者に相続させるという遺言内容についてです。お兄様には「遺留分」という権利があり、遺言によっても奪うことができない遺産の一定割合を相続することができます。お母様の相続人が相談者とお兄様の2名だとすると、お兄様の遺留分は相続財産全体の4分の1の割合となります。ただし、遺留分を主張するためには請求の意思を示すことが必要で、相続が開始し(お母様が亡くなり)、かつ、お兄様が遺言内容を知ったときから一年内に請求の意思表示をしなければ遺留分の権利が時効で消滅してしまいます。さらに、現実にお兄様が遺留分の遺産を取得するには、裁判等を起こさなければなりません(遺留分減殺請求の裁判等)。
 したがって、お兄様からの請求が、お母様の死後で遺言内容を知らせてから一年内になされなければ、お母様の希望どおり相談者が全遺産を取得することになります。また、お兄様と遺留分についての裁判を争うことを避けるには、全遺産の4分の1程度の財産はお兄様のものとする遺言内容にするという工夫をする必要があります。そして、こうした工夫をする余地がなく、どうしても全遺産を相続人に取得させたいとのお母様の意思を貫くためには、お母様の生前にお兄様に対して直接にお話してもらい、お兄様の理解を得ておくことのほかはありません。今すぐにお兄様に納得していただくのは難しいかもしれませんが、少しずつでも努力を重ねていただければと思います。

 


自分の遺産の相続人を指定したい

 

  私は、ある機械部品の製造会社(株式会社)を経営し、業績も順調です。これまで工場の設備投資に励んできていて、会社としての資産はかなりあり、株式は100%私が保有しています。私もそろそろ70歳になるので、大学を出てからずっと会社を手伝ってくれている長男に、会社を任せようと思います。ただ、心配なのは、相続のことです。税理士さんのお話によると、会社の株式の評価はかなりの金額で、私の財産の約8割が株式ということになります。そうすると、相続によって、長男以外の二人の子供(どちらも、会社には全くタッチしていません。)にも株式を渡さざるを得なくなり(妻は昨年亡くなっています。)、長男の会社経営がうまくいかなくなってしまうのではないかと心配しているのです。いい方法はないでしょうか。

1 基本的な解決方法は、当然のことながら遺言です。あなたの財産のうち、会社の株式全部をご長男に相続させるという内容の遺言によって、あなたの死後、ご長男が会社の株式全部を引き継ぐことができるということになります。その他の財産についても、遺言の中で、どれを誰に渡すのかということをはっきりさせた方がいいでしょう。

また、遺言は、公証人役場という公的機関で作成する、「公正証書」にした方がいいと思います。詳しい遺言の内容や公正証書遺言の作成方法については、細かな事情をお知らせいただければ、更にアドバイスさせていただくことができます。

2 ただ、そのような遺言を作成しても、問題となるのは、遺留分という権利です。

例えば、あなたが遺言で会社の株式をご長男に、それ以外の財産の半分ずつを残りのお二人のお子さんに相続させるという遺言を残されたとします。その場合の取り分は、ご長男が8割、残りのお二人が1割ずつ(合計2割)ということになります。

ところが、相続人には、相続財産に対し、法定相続分(お子さんそれぞれ3分の1)の2分の1(お子さんぞれぞれ6分の1)の遺留分という権利があり、その権利は、あなたの遺言によっても覆すことができません。ですから、ご長男以外のお子さん二人あわせて約33%(6分の1×2)の権利があり、不足分の13%(33%-20%)に相当する株式(または、それに相当する現金)を、ご長男に請求できることになります。このことは、生前贈与の方法で株式をご長男に譲っても変わりません。

3 そのようなことになるのを防ぐ方法として、2008年に施行された、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」による、「除外合意」というものがあります。会社の株式を生前贈与の形でご長男に譲り、その分を、他の二人のお子さんを含めた話し合いによって、遺留分の対象から「除外」するという方法です。これによって、会社の株式のすべてを、確実にご長男に譲ることができます。その場合には、家庭裁判所の許可などの手続きが必要であり、一度事務所においでいただければ、詳しくご説明いたします。

 中小企業の経営を円滑に引き継ぐことは、多くの経営者の方にとって深刻な問題です。右にお話しした方法は、一つの選択肢ですが、いずれにしても、早めの対策を検討されることをお勧めいたします。

 


家庭裁判所の手続きについて知りたい

 

  私は数年前に家庭裁判所で夫婦の問題について調停手続をしましたが、そのときは弁護士には依頼せずに自分で対応しました。最近になって家庭裁判所での手続に関する新しい法律ができたと聞きました。今後も夫婦の問題や相続の問題などで家庭裁判所で手続をする可能性があります。以前の手続と違うところをいくつか教えてください。

 家庭裁判所は家族や相続に関する事件などを取り扱っており、事件の性質上、弁護士に依頼せずに自分で手続をされる方も少なくありませんので、自分で手続をしようと考えておられる方にとって新しい法律は気になるところかもしれません。お尋ねの新しい法律は家事事件手続法で、平成25年1月1日から施行されています。それまでは昭和23年1月1日施行の家事審判法のもとで手続が行われてきましたが、施行から半世紀以上が経過し、家族のあり方や生活のスタイルが多様化したことや、個々人の権利意識が高まったことなどを踏まえ、基本的な手続事項を整備し、手続保障をより充実させつつ手続をより利用しやすいものにするために、家事事件手続法が制定されました。
 当事者の手続保障をより充実させた具体例としては、申立書の写しの送付や事件記録の閲覧・謄写があります。
 相手方への申立書の写しの送付については、家事審判法には規定がなかったのですが、家事事件手続法では原則として相手方に申立書の写しを送付しなければならないこととなりました。以前は相手方を非難するような内容を申立書に記載したとしても、申立書は裁判所限りで止まるのが通例で、相手方に記載内容がダイレクトに伝わることはほとんどありませんでしたが、これからは相手方に記載内容がダイレクトに伝わることを意識しながら申立書を作成する必要があります。裁判所が作成した定型の申立書式がありますので、これを利用されるとよいでしょう。
 事件記録の閲覧・謄写については、家事審判法では許可されるか否かは裁判所の裁量に委ねられていました。家事事件手続法においては、調停手続では家事審判法と同様に裁判所の裁量に委ねられますが、審判手続では当事者からの請求は原則として許可しなければならないこととなりました。そのため、遺産分割の事件などでは、調停手続から審判手続に移行し、調停手続の記録について事実の調査が行われて審判手続の記録となった場合には、原則として閲覧や謄写が許可されることになるので、調停手続の段階から閲覧や謄写がなされることも想定して提出資料を準備する必要があります。もっとも、東京家庭裁判所においては、以前から他方当事者に審判手続における提出資料の写しを交付する運用となっていましたので、閲覧や謄写を許可する場面はそれほど多くはないと思われます。
 相手方にこちらの言い分や提出資料を知られてしまい不都合と思われるかもしれませんが、適時に反論やそれに伴う資料提出の機会を与えた方が紛争の早期解決につながることになります。
 手続をより利用しやすくした具体例としては、電話会議・テレビ会議システムの導入があります。家事審判法には規定がなかったのですが、家事事件手続法では、当事者が遠隔地に居住しているとき等には、当事者の意見を聴いたうえで電話会議またはテレビ会議を利用して手続を行うことが可能となりました。
 これら以外にも家事審判法での手続とは異なる点があります。具体的に申立てをされるときや申し立てられたときに個別の事案に応じてご説明いたしますので、お気軽にご相談いただければと思います。


相続放棄のメリットや注意点について教えてください。

 

 

 ある人が亡くなって相続が開始したとき、相続人(遺族)が被相続人(亡くなった方)の権利や義務を一切受け継がないことを相続放棄といいます。相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったものとみなされます。被相続人が、資産を上回る負債を残して他界された時に、資産は引き継げないものの負債を背負わなくてもよいというのが相続放棄の最大のメリットでしょう。

 

【相続放棄のパターン①】

 相続人が相続放棄をするには、家庭裁判所にその旨の申述をしなくてはなりません。相続放棄をすると、裁判所から証明書をもらえますので、債権者から負債の支払いを請求された場合には、これを示して拒否することができます。相続放棄は相続人が各自単独で行えますので、他の相続人の意向を気にする必要はありません。

 注意しなくてはならないのは、申述期間が相続の開始を知ったときから3ヶ月以内と定められており、その間に申述しなくてはならないことです。何もせずに前記期間を経過すれば、原則として被相続人の全ての権利義務を相続分に応じて承継することになります。

 

【相続放棄期間伸長の申立て】

 しかし、被相続人の財産に関する資料が集まらないなど、放棄するか否か判断に迷うことも多いでしょう。そのような場合には、前記期間内に裁判所に対して相続放棄期間伸長の申立をすることにより、期間を延ばすこと(3ヶ月程度)ができます。

 

【相続放棄のパターン②】

 また、相続財産がないと信じていた場合などにも、何もせず放置して前記期間を経過してしまうこともあるでしょう。そのようなときでも、相当な理由がある場合には、相続財産があることを認識したときから3ヶ月以内に申述すれば相続放棄が認められることがありますので諦めないことです。

 

【被相続人が連帯保証人だったとき】

 よくご相談を受けるのは、被相続人が誰かの連帯保証人になっていたケースです。連帯保証人の場合、実際に金銭を借りている債務者が返済を続けていると保証人への請求はされないのが一般です。被相続人が他界された後に債務者の支払いが滞るなどして、突然、相続人に連帯保証人として支払請求がされることがあります。

 そのような場合には前述の相続放棄の申述を試みるのがよいですが(相続放棄のパターン②)、あくまで例外的な措置です。したがって、相続財産の調査に不安が残るときは前述の相続放棄期間伸長の申立をして、時間をかけて慎重に対応することです。

 

【相続放棄は撤回できず、財産処分もできなくなる】

 では、相続放棄をした後に財産がみつかった時はどうすればよいのでしょうか。残念ながら、一度放棄の効力が生じてしまうと、相続開始を知ったときから3ヶ月以内であっても撤回や取り消しをすることはできません。この観点からも、やはりきちんと相続財産を調査することが大切です。

 さらに、相続人が相続財産の全部又は一部を処分すると相続放棄ができなくなります。したがって、被相続人の車の廃車処理など、お亡くなりになる前に済ませておく必要があります。ただし、相当範囲での形見分けや葬式費用の支払い程度であればこれに該当しませんので、後に相続放棄をすることが可能です。

 

【相続放棄と生命保険金】

 また、「相続放棄しても生命保険金は受け取れますか」というご相談もよく受けます。この点は、保険金の受取人が誰であるかで結論が変わってきます。受取人が被相続人である場合には生命保険金は相続財産に含まれますので、相続放棄をすると保険金を受け取れなくなります。しかし、受取人が相続人である場合には、相続人の固有財産とされ相続財産には含まれませんので、相続放棄をしても保険金を受け取れます。保険契約内容をよく確認されてから、放棄されるか否か判断してください。

 


遺言書を作成する際の注意点について知りたい

 

 私は、最近妻を亡くし、娘と息子の二人の子がいます。長年コツコツ働いて蓄えたものと、先祖代々受け継いできた土地を併せ、それなりの資産があるのですが、とっくに「後期高齢者」の仲間入りをし、自分が死んだ後のことも考えなければならないと思っています。娘は、長年入院していた妻の面倒を見てくれましたし、父親である私を気にかけてよくしてくれていますが、息子は、20年ほど前に喧嘩をして以来、実家に寄り付きもしません。

 私の死後、財産をできるだけ娘に渡したいと思います。しかし、それによって姉弟の間でトラブルになることはぜひとも避けたいと考えています。遺言書を作成するということは分かっていますが、どのようなことに気を付ければいいでしょうか。

 まず、公正証書遺言を作成することをお勧めいたします。これとは異なり、自筆証書遺言と呼ばれる遺言の作成方法もあり、自分で全文と日付を書いて署名押印すればよいのですが、後に、本当にあなたがその日付に書いたのかという点が問題となり、トラブルになる可能性が否定できません。それに比べ、公正証書遺言は、証明文書を作成する権限のある公証人が、あなたの遺言の内容を公証してくれますから、上記のようなトラブルは発生しません。費用は、財産の価格や内容によって異なるのですが、例えば1億円の遺産の場合、10万円弱というのが実際です。安くはありませんが、安心を買うためのコストと考えていただければよいと思います。

 遺言の存在に争いがなくても発生し得るトラブルの中心は、遺留分を巡るものです。遺留分とは、例えばあなたが全財産を娘さんに譲るという遺言をした場合であっても、息子さんが、本来の相続分の二分の一である四分の一の限度で、自分に遺産を渡すように請求することができる権利です。遺留分を無視した遺言を行うことも自由ですが、その場合には、息子さんから娘さんに「遺留分減殺請求」という権利主張がなされ、紛争になる可能性があります。それを避けるために、どのような遺言にすればよいか、土地などの資産の評価など様々な点を考慮して検討する必要があります。判断に迷ったら、弁護士に相談することをお勧めします。

 また、それ以外によくあるトラブルとして、特別受益や寄与分を巡る争いがあります。特別受益とは、被相続人の生前に贈与を受けた相続人とそうではない相続人がいる場合に、両者の公平を図る制度です。寄与分とは、被相続人の財産の維持・増加について「特別な寄与」をした相続人がいる場合に、その貢献を金銭的に評価し、やはり両者の公平を図る制度です。それらの存在が認められると、上記の遺留分の計算にも影響してきます。ですから、それらがあるかどうか(あるいは、あると主張されるかどうか)によって、どのような遺言を作成すべきかが異なってくることになります。これらの評価や計算は、かなり複雑ですから、関連しそうな事実をすべて弁護士に説明していただき、確認されるのがよいでしょう。

 せっかく財産を残しても、それを巡ってお子さんたちが争うことになるのは、ぜひとも避けたいところです。それを予防してあげるのが、親の最後の責任といってもよいと思います。そのためにどうすればよいか、いつでもお気軽にご相談ください。

 


事前の相続放棄、できますか?

 

  私には両親と兄姉がいますが、子どもの頃から両親と兄姉とは仲が悪く、高校卒業と同時に自宅を出てから20年以上連絡をとっていません。最近になって、高齢になった父親が体調を崩して余命があまりないらしく、母親が私を探していることを人づてに聞いて知りました。自宅が父親の名義であることは知っていますが、父親がそれ以外にどのような財産を持っているのか知りませんし、何よりも今さら両親や兄姉と関わりたくありません。事前に相続放棄の手続ができると聞いたような気がしますので、放棄の手続をしたいです。

 いただいたお話からはご兄姉が何人いらっしゃるかが不明ですが、仮にお兄様1名、お姉様1名とすると、お父様が遺言書を作成することなくお亡くなりになったときは、お父様の遺産について、お母様2分の1、お兄様6分の1、お姉様6分の1、ご相談者の方6分の1の相続分で相続することになります。

 

 ご相談者の方は、今すぐに相続放棄の手続をしたいとのことですが、相続放棄の手続は、相続が開始されたこと(お亡くなりになったこと)を前提としており、相続が開始する前に相続分を放棄することは法的に認められていませんので、残念ながら今すぐに相続放棄の手続をすることはできません。相続放棄の手続については、ご相談者の方がお父様がお亡くなりになったことを知ったときから3ヶ月以内に、家庭裁判所で行うことになります。

 

 事前に放棄の手続ができるとお聞きになったのは、遺留分の放棄のことではないでしょうか。遺留分とは、一定の範囲の法定相続人に認められた一定割合の遺産の取得分であり、取得を認められた法定相続人の生活保障という面もあります。前記の家族構成の例での遺留分の割合は、お母様4分の1、お兄様12分の1、お姉様12分の1、ご相談者の方12分の1となります。

 

 遺留分の放棄は、相続放棄の場合と異なり、家庭裁判所の許可が必要となります。放棄の理由等を家庭裁判所が審査した結果、仮に遺留分の放棄が認められたとしても、相続人でなくなるわけではないので、お父様が亡くなった後に相続の問題が残ってしまいますし、遺留分の放棄は、確実に家業を継がせたい等の事情がある場合に、遺言書の作成とあわせて行われることが多く、ご相談のケースには向かない手続です。

 最後に余計な話かもしれませんが、お母様が相談者の方を探されているとのことなので、お父様がお亡くなりになった後に後悔されることがないよう、一度ご連絡をされてみてはいかがでしょうか。


民法相続法の大改正がありました

 

  私は、夫名義の一戸建ての家屋(3000万円相当)に夫婦で住んでいますが、夫に先立たれた時にこの家に住み続けることができるか心配です。また、この家以外に夫の預金が1000万円ほどあるので将来の生活費にあてたいと考えています。私たち夫婦には息子が一人おりますが、家族関係があまりうまくいっておらず、相続でもめるのではないかと心配です。

民法(相続法)は、高齢化の進展など社会の変化に対応するため、約40年ぶりに大きく改正されました。特に、「配偶者居住権」という新たな権利が創設され、パートナーに先立たれて残された配偶者の生活に対する配慮がされています。具体的にみていきましょう。  

 

1 遺言を作りましょう

 

まずは夫に「全ての財産を妻に相続させる」内容の公正証書遺言を作成してもらいましょう。ただし、ご子息には「遺留分」という遺言でも奪うことのできない相続財産の割合があります。法律上は、ご子息から遺留分侵害額に相当する金銭支払いを請求されることがありえます。ご家庭の状況からは難しいかもしれませんが、夫が生存中に家族で話し合いをされて、ご子息に遺言内容をあらかじめ納得いただくよう努力されることが大切でしょう。  

 

2 配偶者短期居住権

 

1のような遺言作成に夫が協力的でなかった等の事情があり、夫の財産についてご子息と遺産分割協議をせざるを得なくなった場合でも、居住不動産の帰属が確定するまでは(最低でも6か月間は保障)、そのまま無償で住むことができます。かりに、夫が第三者に居住不動産を遺言で与えてしまったような場合でも、やはり最低6か月間は同様に居住できます。今回の改正によりあらたに導入された制度です。 

 

3 配偶者居住権

 

2の場合で、ご子息と遺産分割協議をせざるを得ない場合、法定相続分を前提とするとどうなるでしょうか。妻と子供の相続分は同じ割合ですから、ご子息にかなり譲歩してもらわないと3000万円相当の居住不動産そのものをあなたが取得してこれまで通り住み続けることは難しいでしょう。

 

このような場合、その居住不動産を無償で使用する(終身も可能)ことができる「配偶者居住権」という権利を、遺産分割によってあなたが取得する方法が考えられます。配偶者居住権の価格評価は、土地建物の実際価格より低額に圧縮することができるため、ご子息の法定相続分の主張を前提としても、居住不動産に住み続けることが可能となる可能性があります。不動産の評価方法など難しい点もある一方、工夫次第で相続財産の預金の一部を分け合うことによる解決も考えられますので、専門家にご相談ください。

 

4 生前贈与を受ける方法

 

あなたと夫との婚姻関係が20年以上の場合には、居住不動産を生前贈与してもらう方法もあります。以前は、相続財産を計算する際に、生前贈与分(不動産3000万相当)も相続財産に持ち戻して計算したため、最終的な取得額は贈与があった場合とそうでなかった場合とで差異がなく実質的な意味がありませんでした。しかし、今回の改正で、生前贈与分を相続財産とみなす必要がなくなりました。したがって、生前贈与を受けておけば、それは相続財産には入らないものとして相続分を計算しますので、あなたはより多くの財産を取得することができます。そのかわり、通常の生前贈与と同様の贈与税がかかりますので、前記2、3の方法などとの選択を慎重に考慮する必要がありますから、やはり事前に専門家にご相談されるのがよろしいでしょう。

 

その他、自筆証書遺言の方式緩和や、相続された預貯金債権について遺産分割前でも払戻しができる制度の創設など、さまざまな変更がされています。亡夫の親を介護していた妻(いわゆる嫁です。嫁は義父の相続人ではありません)に金銭支払請求権を認めるなどの制度も新設されました。

 

週刊誌などで報じられているとおり、今回はまさに「相続法の大改正」がなされています。遺言作成のご相談など、相続が開始する前に十分なご準備をお勧めします。

 


相続問題の円満な解決のために

 

 私には、10年前に他界した父と先月他界した母、そして、3歳年上の兄と2歳年下の妹がいます。父の相続の際には、相続税対策もあり、兄の主導で、財産のほとんどを母が取得するように遺産を分けています。

 

 母の49日も終わり、先日兄から、母の遺産をどのように分けるかについての話がありました。母は、遺言を遺しておりません。兄は、父の死亡後母の面倒をみてきたことや父が元々やっていた家業を継いでいることなどから、現在母名義となっている財産のほとんどを自分が取得すべきだと主張し、私と妹には、金額にして、母の総財産の5%位に当たる現金をそれぞれ渡すから、それで納得するようにと言ってきています。

 私も妹も、その金額ではとても納得がいきません。しかし、だからといって、弁護士さんを依頼して手続をとれば、兄弟間で憎み合うようなことになってしまうでしょうが、それも避けたいと思っています。どうしたらいいでしょうか。

 

 お母様の相続についての相続分は、当然のことながら、ご兄弟3名均等であり、それぞれがお母様の財産の3分の1を取得するのが原則です。お兄様の言い分のうち、お母様の面倒をみてきたという点については、そのことを金銭的に評価できる部分があれば、寄与分といって、その分をお兄様が、遺産から優先的に取得できることになります。しかし、それは、お兄様の努力で介護に要する費用が少なくて済んだ場合のその金額といった、お兄様の働きによってお母様の財産の減少を防いだことがはっきり数字に表れるものに限られ、一般的には、あまり高額になることはありません。また、家業を継いだことも、それを理由に相続財産を多く取得する根拠とはなりません。

 ですから、お兄様の言い分に関わらず、あなたと妹さんは、基本的に遺産の3分の1ずつを渡すよう請求できることになります。 

 そのために弁護士を依頼した場合の手続ですが、遺産の範囲などに争いがなければ、お兄様との直接の交渉か、家庭裁判所の調停及び審判ということになります。交渉と調停は、家庭裁判所が間に入るかどうかが異なるだけで、基本的には話合いです。話し合いがまとまればそれで解決ですが、家庭裁判所の調停まで行っても解決できないということになれば、調停は打ち切られて、裁判官が審判で分割方法を決定することになります。ただ、実際に多くの事件は、調停で解決することができます。 

 兄弟間で憎み合うようなことになることを避けたいというご希望ですが、私の経験上、そのようなことになるかどうかは、多分に交渉や調停における話し合いの進め方にあると思います。お兄様の立場も尊重しながら、理を尽くしてあなた達の考えを説明し、法に基づく平等な遺産の分割を行うよう、お兄様を説得するという姿勢が重要です。そして、場合によっては、お兄様の主張が、法律的には必ずしも通らないと分かっていても、円満な解決のために一部譲ってあげるというようなこともあり得ます。それは、兄弟間にしこりが残らないようにするための手段ですが、その分、ご自身たちの権利が一部実現しなくなるわけですから、慎重な判断が必要です。

 弁護士に依頼した場合、お兄様との関係を考えずに、一円でも多くの遺産を確保するということであれば、事実関係などの打ち合わせは必要であるものの、基本的に弁護士に一任して、法的に可能な主張をどんどん行って頑張ってもらえば済みます。しかし、お兄様との関係なども配慮したいのであれば、あなた達のお気持ちを弁護士によく説明し、じっくりと打ち合わせをしながら手続を進めることが不可欠です。そのようなお気持ちに配慮しつつ手続を進めるよう、弁護士とよくお話をしていただけば、兄弟間で憎み合うことにならない解決も可能だと思います。